Kiss of a shock ~涙と~
第8章 「欲望」
陣内には腑に落ちなかった。


健二が、いともあっさりと万理香を車から降ろしてしまったこと。


一晩明けても、なお、何もその理由を話してくれないこと。


あの、直人、と呼んだ男にその秘密は隠されているのだろうということは明白だ。


だが、何も知らされていないのに、それを探ろうとすることは・・・


絶対に許されない。


分かっているが―、それでも気になるのは仕方ない。


ベッドの上でまだ眠りに付く健二を見遣り、陣内は下着姿のままリビングに向かった。


髪をかき上げて、それから新聞を開く。


今日の株価、それから金融情報、ひととおり目を通して珈琲メーカーから挽きたて入れたての珈琲をカップに注ぐ。


いつもなら、あんなことはありえない。


健二が、誰かの意見を飲んで、自分を押し殺す、なんてことありえない。


それは、自分が一番よく分かっている。


陣内は首を振って呟いた。


「違う違う」


そういうことを考えたって、どうしようもないんだから、仕事しようと思ってたでしょ、と自分に言い聞かせた。
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