Kiss of a shock ~涙と~
父と逢うのは、年に数回程度だった。


なぜか母は、別宅に住み、健二は幼いながらになぜ父と母と一緒に暮らすことができないのかと思っていた。


時々逢う母は美しかった。


美しい花さえも圧倒されるだろう、どこか壮絶なまでの―。


母らしいことをしてもらったことはなく、愛されていたかどうかも疑わしい。


だが、母の美しさだけが、自分の誇りのように思えた。


母を壮絶な美女に変えていたのは、その想いからであったことに気付いたのは間もなくだった。


母が、自殺したのだ。


遺書もなく、なぜ自殺したのかという理由はどこにもなかった。


だが、健二にだけ、その理由が分かった。


母が自殺する前、最後に逢った夜、母から受け取った熊のぬいぐるみの中に、母からの手紙を見つけた。


自分に向けられた


母からの最初で最後の手紙だった。
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