Kiss of a shock ~涙と~
その夜は、雨が降っていた。


降り始めた霧雨は、いつしか雨足を増し、窓ガラスを叩いていた。


吹き荒れる自分の心を映すように。


母の心は、もうとうに壊れていたのかもしれない。


自分を省みない夫。


お金があっても、幸福はない。


子供はいても、愛情はない。


ましてや、父には―、ほかに恋人がいたのだ。


それが・・・


それこそが、直人の母。


つまり、健二と直人の母は違う女で、健二は、自分の母の敵の子と仲良く育っていたのだと、知った。


知らぬ間に、自分も母を追い詰めていたのかもしれない。


5歳の自分にも分かる、それほどの半狂乱の手紙の中には、その女を恨む気持ち、その女の子、直人を憎む気持ち・・・そして、自分に対する憤りさえも鮮明に書かれていた。


自分から何もかもを奪い取った、それらを許さない。


死んでも―。


手紙の最後を締めくくる言葉に、健二は震え上がって、手紙を握り締めた。


泣きそうになり、もう一度、恐々と手紙を見遣る。


最後の言葉、最期の文章は、殴り書くようにこう記されていた。


『未来永劫、あなたたちを許さない。』
< 213 / 347 >

この作品をシェア

pagetop