Kiss of a shock ~涙と~
「けど、思ったようにはいかなかった。」


健二は頭をかいて失笑した。


「結局、どんなに大人ぶったって5歳の子供の浅はかな考えだからね。父が俺を育ててくれるわけがない、ってことに考え至らなかったんだよね。」


すっかり温くなった珈琲を喉に注いで続ける。


「父は、俺を引き取りはしなかった。ありえないけど、俺をワンルームのマンションに一人で住まわせて、それから秘書とか自分の愛人らに俺の面倒をみさせた。」


18年間、俺の顔を見に来ることなんか、一回だってなかった。


「けど、必死で勉強して最高の学歴を手に入れ、無類の手腕を発揮して父親の事業にも食い込んでいくと、俺を認めざるおえなくなったのさ。」


自分の後継者は、こいつしかいない―、のだと。


「で、18年ぶりの再会が、あれだったってわけ。」


向かいのソファーに座る陣内を見遣る。


陣内は目を丸くし、唇も引き結んだまま愕然としている。


ふっと笑って、健二は身を乗り出した。
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