Kiss of a shock ~涙と~
洗面所にはすでに人の姿はなく、着替えと下着が用意されていて


万理香はそそくさとその衣服に身を包み、鎧を身にまとった騎士さながらに戦闘態勢を整えた。


次の間へと続く扉をごくりと生唾を飲んで開くと、そこには髪の長い女の後姿があった。


女は万理香の気配に振り返った。


優しそうな印象を与える万理香よりも、10歳は年上だろう女は、苦しげに微笑むと言った。


「ごめんね、びっくりした?」


万理香は思わず、心と反していいえと言ってクビを振った。


「どうしても、放っておけなくて・・・ついてきちゃったんだけど、・・・覚えてる?」


万理香はきょとんとして、それから小さく顔をしかめた。


「すみません、あの・・・ちょっと覚えてなくて・・・。」


お酒でも飲んだのだっただろうか?


それでも、記憶がなくなるまで飲んだことなんて一度もないのに。


「あ、いいのいいの覚えてないならそれで!」


「けど・・・。」


「そこでね、外灯の下であなたが気分を悪そうにしてたから、声をかけちゃったのよ、私と・・・あ、連れがいたんだけどね、そいつは先に帰らせたから。」


一気にそう言うと、女はにこりと微笑んだ。
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