Kiss of a shock ~涙と~
健二は、ハハッと声を上げて笑うと立ち上がり、つかつかと直人に歩み寄った。

「殺す?お前を?俺が?何言ってんだよ、直人!」

あはははと、これまで見たこともない、聞いたこともない様子で楽しげな声を上げる。

直人は万理香を強く抱きしめて、それからそっと腕を離した。

「・・・なお・・・。」

直人の名を口にする前に、自分の姿が目に映った。

引き裂かれた服をたぐり寄せて、身体を抱えるように腕を巻く。

見上げると、健二と直人が向かい合っていた。

「殺したら、それまでじゃないか。それじゃあ、俺の憎しみは消えない。母さんの憎しみだってなくならない。お前は生きたまま、地獄の業火に焼き続けられるんだよ。そうじゃなきゃ、楽しくないじゃないか。」

「健二・・・もう、やめろ。」

「やめろ?お前を憎む事を?それは無理な相談だよ、直人。」

「・・・これじゃお前は救われない、永遠にお前こそが・・・」

「俺こそが?何?」

「・・・っ」

健二は目の前で言葉を失くして立ち尽くす直人を、思い切り突き放した。

「俺は、お前を憎み続ける。お前の愛するものも大切なものも全て奪ってやる。俺が生きている限り、永遠にお前は苦しむんだ。」

直人の隣を横切って、健二はちらりと万理香を見下ろした。

青い顔で震える万理香に、冷たい視線を落として、微笑する。

ガチャン

渇いた音を立てて、扉は閉まった。
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