Kiss of a shock ~涙と~
「そういうこと言うなよ!」

万理香は、思わぬ大声に思わずびくりと身を竦めた。

怯える万理香の顔を見下ろして続ける。

なるべく怖がるように、酷くきつい言葉で。

「俺の、俺のどこを好きになるっていうんだ?顔か?それとも・・・冷たくされればされるほど嬉しいって、お前、よっぽどのマゾだな、もしかして、さっき健二に犯られそうになってたのも、本当は悦んでたんじゃねぇの?」

そう言って、ははっと鼻で笑ってやった。

どうだ?

もう、懲りただろ?

俺に近付くのはよせ。

そうしたら、健二も手を出さない。

もう、俺たち兄弟のことを忘れてくれ・・・

けど、万理香は・・・、そんな俺をじっと見つめてただ、首を横に振った。

「ダメだよ・・・、そんなの、もう信じない。」

万理香に気圧されるように俺は、一歩後ずさった。

「直人さんの優しさが好き、直人さんの不器用な優しさが好き。ぶっきらぼうで、冷たくて、けど・・・本当は私のことを心から心配してくれてる。もう、ごまかされない。直人さんの優しさを・・・私は信じてる。」

俺は、小さく目を伏せた。

髪を掻いて、背中を向ける。

「お前・・・は、何なんだ?」

「え?」

直人の広い背中を、何度も自分を助けてくれたその人の背中は、震えているように見えた。

「もう、いい加減にしてくれよ・・・。何で、俺を・・・俺の事を・・・」

「直人さん・・・」

「いらないんだ。・・・俺は大事な人も大事なものも何もいらない。作っちゃいけない。幸せになっちゃいけない・・・」

「そんなわけない!そんなことない、健二くんが何て言ったって、どんな理由があったって・・・。確かに、私は何も知らないのかもしれない。けど・・・!もう十分だよ、直人さんは直人さんで幸せになっても良いの!」

万理香は、直人の前に回り込むとその凍えた手を包みこんだ。
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