Kiss of a shock ~涙と~
泣きたくても、泣けないのかもしれない。

青褪めて震える瞳を見て、そう思った。

「泣いても・・・良いんですよ?」

おそるおそる言って、小さく首をかしげた。

直人はくすっと笑う。

「さっきのあんたからは、到底想像もつかない言葉だな。」

「もう、揚げ足はとらないでください。」

直人は、ゆっくりと顔を上げると、万理香の唇に優しくキスをおとした。

「直人さん・・・」

「誰も好きにならない―って、決めてたんだけどな・・・。」

・・・

万理香は直人の身体に腕を回すと、守るようにぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫です!」

何が、なんて根拠はどこにもないし、どう言えばいいのか分からない。

私には、見えない暗闇が直人さんにはあって・・・その暗闇が直人さんを縛っているんだ。

けど・・・

「・・・もう、どんな呪縛もあなたを苦しめることなんかできません。直人さんは私を愛したんだから。」

そう言って、直人の顔を見つめた。

言い終えてから、恥ずかしさがこみ上げてきて、直人の眼差しから逃れるように顔を伏せた。

耳まで熱い。

絶対に今、私真っ赤になってる。

けど、後悔はしない。

こんなに・・・

くすっと、直人が頭上で含み笑った。

耳をくすぐるような笑い声。

・・・好き。

「そうか・・・」

そう言って、髪に口づける。

「顔、上げろよ。」

って、その声に熱がこもる。

ふるっと震えて、顔を恐々と上げた。

びりびりーーー

背中に電流がはしったみたいだった。

直人の目が、その瞳が・・・優しくて・・・暖かくて・・・。

蕩けそうだ。



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