はじまりのアリス


……本物のアリスのことを話さなければ正人を殺さない?

だからあの時、俺に言わなかったのか?


しょせんクラスメイトなんて他人だって言ってたのに、なんで……。


「ど、どういうことだよ杏理……。全然なに言ってるかわかんねーよ……?」

日野沢の隣で正人が戸惑っていた。


「ごめん正人」

日野沢が今まで見せたことのないような顔をした。


「うちの家庭環境を知って、いつも大丈夫か?なにかあったら頼ってくれって気にかけてくれてたこと。本当は嬉しかったし感謝してた」

「杏理……」

「だから正人だけは守りたかった。正人だけは傷ついてほしくなかった」


日野沢の鋼の心が一気に剥がれていく。


――『ああ見えて杏理は弱いからな』

あの時言った正人の意味がようやく分かった。


日野沢は強くみせていただけで、本当は強くなんかない。


正人と日野沢にどんな絆があったかは知らないけど、ただお互いに同じ気持ちでいたってことだけは分かる。


日野沢は正人のことが好きだったんだ。

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