はじまりのアリス
「仲良く?こんなキモいヤツと友達になれるわけないでしょ?」
人形は教室を一周して再び今村の元に帰ってきた。
汚いものを触るかのように人形の足先を摘まんで、ゆらゆらと逆さまに揺らしている。
「有栖川はこの気持ち悪い人形が友達なんだから、こいつとずっと一緒にいればいいんだよ」
今村はなにを思ったのか教室のベランダに出て、人形を手すりの外に出した。
「やめて。お願い、返して……」
それを追いかけるように有栖川もベランダへ。
その顔を見て今村がニヤリと笑う。
「いいよ。返してあげる。取れるなら、ね」と人形は今村の手から離れて空へと投げ捨てられた。
黒い髪の毛とピンクの洋服が青空に浮いて、スローモーションのように落下していく。
と、その時――。
銀色の手すりを乗り越えて有栖川の手が人形へと伸びる。
……え。
今村も笑っていたクラスメイトたちも傍観者だった俺たちも時間が停止したように固まった。
そして人形を抱えた有栖川はそのまま下へと落ちていく。