はじまりのアリス


ここは2階。高さは3メートル以上。

ドンッ!!と冷たいコンクリートに打ちつけられた鈍い音が響いて、俺はすぐにベランダへと走った。


「有栖川っ!」

とっさに名前を呼んで下を覗くと……。


そこには仰向けのまま足がヘンな方向に曲がって倒れている有栖川の姿。

身体の下からはどんどん赤い血が流れてきて、頭から落ちたのか体液らしきものも混ざっていた。


「……あり……すがわ……」


隣で今村も呆然としていて、クラスメイトたちが今さら悲鳴を上げたりヤバいって顔をしていた。


「だれか早く先生呼んできて!それから救急車も!」

美織の言葉に渡辺を含む女子たちが職員室へと走る。


「は、はは。か、勝手に落ちたのよ。見たでしょ?」

今村を含めた数人は現実逃避をしようと必死で言い訳をしていたけど、俺はずっと有栖川のことを見たまま止まっていた。


動かない身体。

人形を大事そうに抱えて目は見開いていた。


遅れてやってくる罪悪感。

時間は9時45分。

本当に取り返しのつかないことが起きてしまった。


その目はじっと俺を見つめていて、動くはずがないのに一瞬笑ったように見えた。

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