極道に愛された、氷と炎の女の物語。(仮)
「先客かな?」
後ろから声が聞こえる。
とっさに涙を拭った。
声のした方を向くと、一人の男が立っていた。
「お客様、遊女を部屋に一人にしたら、その子泣いてしまいますよ?」
遊女には寂しがり屋が多い。
「今日は誰も買っていない。」
吉原に来て誰も買わない?
「不思議なお客様だこと…」
私はそう言って、再び月を見上げた。
「お前、名前は?」
「陽炎です。」
私が静かに言うと、
「源氏名のことではない。本名だ。」
このお客様本当に不思議。
源氏名ではなく本名を聞きたがるとは。