想いを伝えるその日まで
「なあ、健治。奈由、なんか様子が違うような気がするんだけど」
携帯電話をいじっている健治に尋ねる。
「え、奈由が? 俺は特にそんな感じはしないけどなあ」
のんきな口調で健治は答えた。
少しイラついたが、兄である健治がそう言うのだから、俺の勘違いかもしれない。
そう思い直している所へ、奈由がマグカップを片手にリビングへ戻ってきた。
ピンク地に白いうさぎが描かれている、奈由が気に入っていると言っていたマグカップだった。
健治の隣に座り、奈由はココアを一口飲むと、ふうと一息ついた。
「あの……お兄ちゃん、黒田さん。ちょっとご相談が……」
少しの沈黙の後、奈由は少し申し訳なさそうにそう言った。
その表情に、やはり自分の勘は間違っていなかったのだ、と確信する。
奈由は何か相談したい出来事にぶつかったのだ。
この三週間の間に。
いや、もしかしたら、それ以上前からかもしれない。
その少し困ったような、申し訳なさそうな切ない表情に、胸がきゅっと締め付けられた。
奈由の力になりたい、奈由を守ってやりたい、と強く思った。
少し大げさかもしれないけれど。