想いを伝えるその日まで

 俺と健治は、すぐに体を動かすことができなかった。
 あまりのことに、呆気にとられていたのだ。

 我に返った俺は、すぐさま奈由とその男を引っ剥がしてやった。
 奈由は何が起こったのか理解できないのか、ぽかんとした顔でその男を見ているだけだった。


「お前……奈由に何やってんだよ。警察に通報するぞ」


 男を睨むと、その男もぽかんとした顔をしている。
 どうしてお前がそんな顔をしてるんだよ、と怒鳴ってやりたくなった。

 俺の言葉に男はハッとしたかと思うと突然、にこりと笑って


「やっぱり奈由なんじゃん! 十一年ぶりだね、奈由」

 と、言った。



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