想いを伝えるその日まで
「十一年ぶりのくせに気軽に女に抱きつくような男、こいつで十分だろうが」
俺の言葉に、日下部は無言で口を尖らした。
よく顔を見てみると、悔しいけれどなかなか良い男だ。
背は高いし色白だし、目は大きいし鼻は高い。それなのに顔は小さくて、何より若々しい。
「まあまあ黒田さん、落ちついてください。私は大丈夫ですから」
奈由はにっこりと微笑む。
「亮ちゃん、本当に懐かしいね。でも突然どうしたの?」
「またアメリカから引っ越してきたんだ。だから奈由に会えるかもしれないと思ってさ、記憶を頼りにここまで来たんだ」
すっかり昔を思い出したらしい奈由は、まるで弟に向けるような優しい目で日下部を見ている。
しかも、昔の呼び名だったという『亮ちゃん』で日下部を呼び出した。
なんだか胸がきゅっと締め付けられるような感覚だったが、それも大人げない。
相手は高校生だ。
奈由も弟が帰ってきたようで嬉しいのだろうし、俺もこれから顔を合わせる回数が増えるかもしれない。
だから俺も可愛がってやろう、と思っていたというのに。
次に日下部の口から飛び出した言葉は、俺のそんな思いを吹き飛ばすようなものだった。
「もしも会えたら、奈由にプロポーズしようと思って。俺のお嫁さんになってよ、奈由」
もう、前言撤回だ。
こいつは弟のような存在ではない。
俺のライバルだ。間違いなく、俺のライバルになる男だったのだ。
END