彼は黒い薔薇のよう
彼は黒い薔薇のよう
朝なのか夜なのか、はたまた昼なのか夕方なのか。
この閉ざされた空間に閉じ込められてから、どれほどの時間が経ったのだろう。
わたしはベッドに横たえていた体をそっと起こした。
そのとき、微かに奏でる金属音。
それはわたしの手首と足首に嵌められているもののせいだ。
わたし自身の顔が写るぐらい綺麗に輝いている銀の錠。
薔薇の花が刻まれていて無駄にお洒落。
少し動くだけで、錠についている長い鎖がチャラチャラと高い音を響かせる。
そのことに最初こそは不満を感じていたわけだけど、今となってはそこまで不快ではない。
これは慣れだろうか。
だとしたら慣れとは恐ろしいものだ。
寝起きのぼんやりする頭で、代わり映えのしない部屋を見渡す。
何畳なのか、考えるのも面倒になるぐらいの部屋の広さ。
床はこれまたわたしの姿が映るぐらい綺麗に磨かれていて、その色は黒。
昔こんな感じの宝石を見たことがあるけど、いくらなんでもそれではないだろう。
むしろ違うと思いたい。
< 1 / 14 >