あなたの隣ってあいてますか?



磯田さんに通されたのは、クリニックから自宅に通じる扉だった。

ということは、磯田さんの自宅。

「ちょっと、ここで待っててくれる?しんどくない?横になってても構わんし」

「はい」

リビングのソファに通された。

革張りの冷たい肌触りだけど、すぐに温もりを感じるソファだった。

きっと高い物んだろうな…

気がつくと私は、ソファに横になっていた。

「お待たせ。ちなっちゃん、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です…」

「立てるか?」

「はい…」

磯田さんは、軽く私の右腕を持って支えてくれた。

「車、すぐ外にあるから」

磯田さんの手は、大きくて、温もりがあって、安心感があった。

玄関先にある車は、少し大きな車で、車音痴な私でもわかる国産車。

外車ではないことに少し親近感が湧いた。

磯田さんは、車の助手席を開けて「どうぞ」と軽く私の背中を押してくれた。

私は、道案内をしながら、ハンドルを握る磯田さんの手を見ていた。

私は、男の人の手を見てしまう…

熱があっても、そのことは忘れてなかった。

さっき支えてくれた温もりのある手…

少し、ドキドキしてしまった。

「お母さん、心配してはるんちゃう?」

「そうかもしれません…」

「俺、顔出していいかな?」

「え、あ、で、でも…」

「伊原さんってご夫婦で月一回ぐらい通院してはるよね?」

「はい」

「覚えがあるわ」

「じゃあ、お願いします」


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