◆ナイトメア~引っ越し~【ホラー短編】
◆緊急事態
「お父さん、大丈夫!? どこ、どこが痛いのっ!?」
母が荷物を放りだして、父のもとへ飛びつくように駆け寄る。
「う……ううっ!?」
「腰!? 腰が痛いの!?」
脂汗を浮かべながら、顔面蒼白でうなっている父。
必死に症状を聞き出そうとする母。
そして私は、荷物を抱えたまま、金縛りにあったように棒立ちになってその様子をただ見ていた。
驚きと恐怖。
父の一大事だと言うのに、何も考えられない。
「美鈴っ! 部屋に電話があるから、救急車を呼んで!」
そ、そうだ、救急車!
母の叫び声に、私の呪縛が解ける。
母から鍵を受け取り、グレーのスチールドアの鍵穴にガチャガチャと乱暴に鍵を突っ込む。
カチン。
古い割には、軽快な音を響かせて鍵が開いた。