◆ナイトメア~引っ越し~【ホラー短編】
我が坂田家は、工事現場の監督などと言う父の職業柄転勤が多い。
転勤族も慣れればそれなりに知恵がつくもので、引っ越し荷物も必要最小限で普通の家庭よりも少ない。
故に、夕方の四時を回る頃には、石崎兄弟と言う頼もしい助っ人二人のお陰で、引っ越し荷物は新居の302号室に運び終えてしまった。
今は、部屋のダイニングキッチンで、運び込んだ白木のテーブルを三人で囲んで、私が買ってきた自販機のジュースで喉を潤している所だ。
「それにしても、ただのぎっくり腰でって言っちゃ何だけど、大事にならないで良かったね」
石崎兄・政志さんがニコニコ笑顔で話題を振ってくれる。
父が救急車で運ばれて三十分後には母から、『酷いぎっくり腰で念のため一週間入院』と電話連絡がきていた。
母は、一度父の着替え一式を取りに来て石崎兄弟にお礼を言うと、『夜には帰れると思うから、留守番頼むわね』と言い残し、又病院に向かったのだ。
「はい。本当に良かったです」
政志さんの気さくな性格のお陰で、初対面の人間と話すのが苦手な私も、いつの間にかうち解けていた。