みすみの花が開くとき
「僕は…、雪を選ぶよ」


白い花が揺れる。


「嘘…」

「嘘じゃない!」


思わず、張り上がる声。


「僕は…、雪が好きだよ?

雪だけが、好きなんだ…」

「じゃあ!」


身構える。


雪の怒鳴り声なんて、初めて聞いたな。


「じゃあ…。

《Lievre》で、お姉ちゃんと抱き合ってたのは、なに?」


震えた涙声。


お姉ちゃん?





…僕と抱き合った…、お姉ちゃん…?





凜さんか?


「それは、お客さんにいきなり抱きつかれて…」

「…お客さん…?」

「うん。僕、あそこで見習いやってて、そのお客さん」

「お客さんが、抱きつく…?」

「僕もビビった」


雪はうつむいて、何かを考えているようだった。


「雪には信じられないかも知れないけど…。

…本当だから」





雪は顔を上げた。

その顔には、涙の跡。


「…信じるよ…?」


抱き締める。


雪…。ちゃんと飯、食ってる?


「…誠…?」

「ありがとう…。

信じてくれて…」


抱き返される。


「誠だから…、信じるんだよ?」

「ありがとう…」





…あぁ、そうだ。後で、英兎にお礼しないとな…。










二人は、抱き合う幸せに満たされた。

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