みすみの花が開くとき
《花月》の表札の前。


「じゃ、ここで…」

「うん…」


踵を返す。

少し歩いて、振り返る。



視線が合う。



手を振る。

少し遅れて、控え目な返し。



それだけで、頬が弛みかける。



又、踵を返す。



…雪はまだ、僕の背中を見てくれているだろうか。

これからも、応えてくれるだろうか。



『聡兄ぃに似てる』



脳裏に蘇る、親友の言葉。



雪。僕、聡兄ぃさんじゃないんだ。

雪は、僕を…。《聡兄ぃに似てる誠》じゃない、僕を見てくれてるのかな…?


手元のヘアピンは応えない。



空を見上げた。



月は雲に隠されていた。

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