彼は


ーーーー「……夏目君?」


家のチャイムが鳴ったので、ドアを開けたら彼がいた。
取り敢えず彼を家にあげて、お茶を出した。
彼は何も言わない。
そういえば、と気まずい空気のまま夏目君の家を出てしまったのだと思い出す。


「夏目君……」
「殺した」


私の言葉を遮って彼は言った。
彼の言葉の意味がすぐにわかってしまったような気がした。

わかってはいけない。
考えるな、考えたらいけない。
彼を見るな。
彼の口を閉じろ。
いや、私が耳を塞ぐんだ。
そうすればなにも聞こえない、わからない。
脳が全力で拒否をする。


「俺が殺したよ」


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