彼は

「菜々美の身体、傷が沢山あった。やったのは菜々美の親でしょ?知ってたよ。菜々美を産んでくれたことは感謝してる。だから俺も菜々美に会えたしね。けど菜々美に危害を加えるなら邪魔な存在にしかならないよね。だから殺したんだ」



開いた口が塞がらなかった。
嬉しそうに話す彼。
飼い主に褒められることを期待している犬のようだ。

彼が私の鎖を解いてくれたのか。
すぐにそう思った自分は異常者だ。


「大丈夫なの!?夏目君が捕まったりしないよね!?」
「大丈夫だよ。うまく殺れたから」


一体どんな手段で、と考えるが、両親の遺体の形を思い出して気持ち悪くなったため、考えるのはやめにした。


「夏目君……」


彼を抱き締める。
彼は私を抱きしめ返し、「ん?」と優しく返事をする。
彼の声が私の脳内を痺れさせる。
痺れて、何が正解か、何が不正解かわからなくなる。
まるで催眠術にかけられたかのように、私の思考は壊れた。


「ありがとう……」


この日、私は壊れた。
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