彼は
「昨日は菜々美が帰って来なかったから部屋が汚れちゃったの」
「だから今片ずけ……」
「口答えしていいなんていつ言った?」


言葉を続けることはできなかった。
私に背を向けていた母がこちらを振り返り、鋭い目付きで睨み付けて来る。
母はゆっくり立ち上がり、溜息を吐いてこちらへ歩いてくる。
後ずさる事だって許されない。
逃げられない。
ただ恐怖に顔を歪めるだけ。
私の目の前に立つなり再び強い力で頬を叩かれ、床に倒れこむ。
床に倒れこんだ私に合わせるように母も床にしゃがみ込み、私の頭に手を置いて床にグリグリと押しつけた。


「ごめんなさ……っ」


早く解放してくれと謝罪の言葉を繰り返す。
床に頭を押し付けられているため、母が今どんな表情をしているのか、確認することはできない。
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