私とあいつ
今は、
「えーと…。これは一体どうしたのかな?幹久?」
誰もいない朝早い教室でなぜか、私は校庭側の窓を背に幹久によって追い詰められていた。
しかも、顔の横に幹久の両手があって逃げられないという状況、つまりは壁ドン☆をされているということだ。
なぜこんなことになったのか、と混乱する頭で私は必死に考える。
まず、私が一番に来ていた。教室の鍵は職員室から取ってきたし。
んでグダグダとケータイを使って時間をつぶしていたら、幹久が来た。
話相手にちょうどいいって思ってケータイをポケットに入れた時に、幹久と食べようと思ったお菓子があることを思い出した。
お菓子を取りにカバンのとこに行ったら、忘れていることに気づいた。
そのまま幹久のとこへ行こうとしたら、いつの間にか後ろに立っていて…。
「おはよ!今日は早いんだね、幹久」
「おはよう、実花。なんか今日、早く起きれた」
「へぇー、よかったね!ちなみに私はオールだぜっ!」
「そっか、お疲れ」
「あんがとー!!」
――言葉だけだったら普通に会話しているかのように思えるであろう…。
しかし実際は、一言話すたびに幹久が私に詰め寄り、私はそんな幹久から逃げるように徐々に後ろへ下がっていった。
そして、逃げ場もなくなって窓に背中が当たった時、幹久の両手が顔の横に置かれた。
…うん、なんでこんなことになったのか全くわかんないっっ!!
一通り思い出してみたが、わからない。
分かんないなら、分かんなままでもいっか。
後で分かるよ、たぶん。
考えることがめんどくさくなり、実花は投げやりに気持ちをまとめた。
「……あのさ、」
「はいっ!!な、何かなっ?!」
今まで黙っていた幹久が口を開くと、驚いてつい変な口調になってしまった。
そんな私を見てくすりと笑った。
「実花は俺のこと、どう思ってんの?」
「はぇ?」
思いもよらぬ質問で変な声をもらしてしまった。
いや、だってさっきまでずっと眉間にしわがすごい寄せていたから、もっと怖いこと言われるかもって思ってたのに…。
質問の意味がよく理解できず、不思議そうな顔で私は答える。
「どうって…。やっぱ、かわいい!とかめっちゃかわいい!とか?うーん…あとは…、友達?かなぁ…。うん、めっちゃかわいい友達って思ってるぜっ!」
ちょっとテンションを上げてみたら、ふーんと言って幹久は何かを考え始めた。
そんな幹久は一年生の時とは全く変わっていた。
身長はそんなにも変わらなかったのにいつの間にか私を追い抜いていた。
声も男子の中では高い方だろうけど、十分に低くなっている。
のどぼとけも出ているし、筋肉もしっかりついている。
小柄だった体格も、がっしりしたものに変わっている。
…もう、かわいいとは言えないかな。
「幹久、やっぱ違ったや。」
「え、何が?」
ん?と首を傾げる幹久に笑いかけながら言う。
こういうところはかわいいんだけど、
「幹久のこと、かっこいいと思ってる。…うん、かっこよくていい奴だって思ってるよ」
もう、かわいいって言葉は当てはまらなくなってる。
「…実花ってバカだよね。」
「はぁ?!」
せっかく言い直してやって、かっこいいと言ってやったのに、バカだとぉ?!
一瞬にしてキレた私は怒ってやろうと幹久の顔を見上げると、何も言えなくなってしまった。
「ほんと、バカなんだから…」
「う、うるさいな…」
幹久は顔を片手で覆い隠していたけど、真っ赤になっていることが指の間から覗いてるところでわかった。
初めて見る幹久につい私は調子が狂ってしまう。
普段ならばここで殴り飛ばしてるのに、なんだかできなくなっている。
「…話、戻すぞ。あのさ、お前は俺のこと友達って思ってんのか?」
「あ、うん。それ以外になんかある?」
気まずい空気の中、なんとか幹久に言われることに答える。
幹久とは気が合うだけでそれ以上でも以下でもないよね…。
むむむ…と首を傾げて考えていると、また顔の横に手をつかれる。
そうっと自分より高い幹久を見上げる。
「俺さ、お前のこと好きなんだけど。気づいてないの?」
…はい?
「一年の頃からずっと。ちょっと面白半分にちょっかい出してみたら意外にかわいい反応するし、そーっと背中ツンツンってしたらくすぐったいって笑いこらえててかわいかったし。頭、ぽんぽんってしたりなでたりしたら顔、ふにゃぁってなってかわいかったし。俺が誰かと付き合ってみたら少しは気にしてくれるかと思ったら、全然変わんないし。ちょっと意味深っぽく『忘れられない』って言ってみてもなんにも聞いてこないし。…この二年間、俺ずっとアピールしてきたのに」
最後は口を尖らせるときましたかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
混乱する頭の中とは裏腹に、目はしっかりと久しぶりの幹久のすねた顔を焼き付けている。
「え、いや、ありえないでしょ…?」
ポロっとこぼれ落ちた声は否定していた。
「あはは、ないでしょ。冗談、やめてよ~」
軽い感じで流そうとすると、幹久は真剣な顔で言い切った。
「冗談なんかじゃない。俺は実花が好きだ」
やめてやめて。そんな真剣な顔しないで。
本気みたいなのやめてよ。
信じてしまいそうじゃん。
いつもみたいに笑ってよ。本気にさせないでよ。
こんなのは必要ないのに。
この気持ちはずっと前に捨てたのに、
「実花が恋愛に臆病になってるのもわかってる。怖がってるのも、俺の言葉が信じられないのも。」
わかってるんだったら、言わないで。
そんなこと。
いやなの。恋愛なんてもう、たくさん。
もう傷つきたくないの、幹久は知ってるでしょ?
「実花が傷つきたくないのはわかってるよ。…俺は、実花を傷つけない。」
嘘ばっかり。
傷つくのわかってるんだから。
恋愛は絶対に傷つくの。
私が傷つかなくても、ほかの女の子が悲しくなる。
心に傷を負うんだから。
「なあ、実花。先輩はもういないから、」
「喋らないで!!」
突然、声を荒げた私の気迫に驚いたかのように幹久が息を呑む。
「先輩のこと!もう言わないで!!」
「実花、」
そっと手を伸ばす幹久を思いっきり突き飛ばす。
がしゃん!という音ともに幹久は床に尻をつく。
「…恋は、もう嫌なの!幹久はそんなこと今まで言わなかったから、一緒にいたのに…っ!私を理解してくれてると思ってたのに!!」
「実花!」
「もう私に関わらないで!…っ!」
止まらない、何もかももう止まらない。
思い出が、忘れていたと思っていた、あの日が、
脳裏をよぎる。
さっと、幹久の横をすり抜け教室を飛び出す。
「実花!待てよ!」
幹久が呼び止める声が聞こえたけど、聞こえないフリをする。
あの日が、思い出される。
一瞬にしてあの日に戻っていってしまう。
忘れたいのに、消してしまいたいのに。
どうしても私は忘れたフリをして覚えていてしまう。
…あの日のことを、
誰もいない朝早い教室でなぜか、私は校庭側の窓を背に幹久によって追い詰められていた。
しかも、顔の横に幹久の両手があって逃げられないという状況、つまりは壁ドン☆をされているということだ。
なぜこんなことになったのか、と混乱する頭で私は必死に考える。
まず、私が一番に来ていた。教室の鍵は職員室から取ってきたし。
んでグダグダとケータイを使って時間をつぶしていたら、幹久が来た。
話相手にちょうどいいって思ってケータイをポケットに入れた時に、幹久と食べようと思ったお菓子があることを思い出した。
お菓子を取りにカバンのとこに行ったら、忘れていることに気づいた。
そのまま幹久のとこへ行こうとしたら、いつの間にか後ろに立っていて…。
「おはよ!今日は早いんだね、幹久」
「おはよう、実花。なんか今日、早く起きれた」
「へぇー、よかったね!ちなみに私はオールだぜっ!」
「そっか、お疲れ」
「あんがとー!!」
――言葉だけだったら普通に会話しているかのように思えるであろう…。
しかし実際は、一言話すたびに幹久が私に詰め寄り、私はそんな幹久から逃げるように徐々に後ろへ下がっていった。
そして、逃げ場もなくなって窓に背中が当たった時、幹久の両手が顔の横に置かれた。
…うん、なんでこんなことになったのか全くわかんないっっ!!
一通り思い出してみたが、わからない。
分かんないなら、分かんなままでもいっか。
後で分かるよ、たぶん。
考えることがめんどくさくなり、実花は投げやりに気持ちをまとめた。
「……あのさ、」
「はいっ!!な、何かなっ?!」
今まで黙っていた幹久が口を開くと、驚いてつい変な口調になってしまった。
そんな私を見てくすりと笑った。
「実花は俺のこと、どう思ってんの?」
「はぇ?」
思いもよらぬ質問で変な声をもらしてしまった。
いや、だってさっきまでずっと眉間にしわがすごい寄せていたから、もっと怖いこと言われるかもって思ってたのに…。
質問の意味がよく理解できず、不思議そうな顔で私は答える。
「どうって…。やっぱ、かわいい!とかめっちゃかわいい!とか?うーん…あとは…、友達?かなぁ…。うん、めっちゃかわいい友達って思ってるぜっ!」
ちょっとテンションを上げてみたら、ふーんと言って幹久は何かを考え始めた。
そんな幹久は一年生の時とは全く変わっていた。
身長はそんなにも変わらなかったのにいつの間にか私を追い抜いていた。
声も男子の中では高い方だろうけど、十分に低くなっている。
のどぼとけも出ているし、筋肉もしっかりついている。
小柄だった体格も、がっしりしたものに変わっている。
…もう、かわいいとは言えないかな。
「幹久、やっぱ違ったや。」
「え、何が?」
ん?と首を傾げる幹久に笑いかけながら言う。
こういうところはかわいいんだけど、
「幹久のこと、かっこいいと思ってる。…うん、かっこよくていい奴だって思ってるよ」
もう、かわいいって言葉は当てはまらなくなってる。
「…実花ってバカだよね。」
「はぁ?!」
せっかく言い直してやって、かっこいいと言ってやったのに、バカだとぉ?!
一瞬にしてキレた私は怒ってやろうと幹久の顔を見上げると、何も言えなくなってしまった。
「ほんと、バカなんだから…」
「う、うるさいな…」
幹久は顔を片手で覆い隠していたけど、真っ赤になっていることが指の間から覗いてるところでわかった。
初めて見る幹久につい私は調子が狂ってしまう。
普段ならばここで殴り飛ばしてるのに、なんだかできなくなっている。
「…話、戻すぞ。あのさ、お前は俺のこと友達って思ってんのか?」
「あ、うん。それ以外になんかある?」
気まずい空気の中、なんとか幹久に言われることに答える。
幹久とは気が合うだけでそれ以上でも以下でもないよね…。
むむむ…と首を傾げて考えていると、また顔の横に手をつかれる。
そうっと自分より高い幹久を見上げる。
「俺さ、お前のこと好きなんだけど。気づいてないの?」
…はい?
「一年の頃からずっと。ちょっと面白半分にちょっかい出してみたら意外にかわいい反応するし、そーっと背中ツンツンってしたらくすぐったいって笑いこらえててかわいかったし。頭、ぽんぽんってしたりなでたりしたら顔、ふにゃぁってなってかわいかったし。俺が誰かと付き合ってみたら少しは気にしてくれるかと思ったら、全然変わんないし。ちょっと意味深っぽく『忘れられない』って言ってみてもなんにも聞いてこないし。…この二年間、俺ずっとアピールしてきたのに」
最後は口を尖らせるときましたかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
混乱する頭の中とは裏腹に、目はしっかりと久しぶりの幹久のすねた顔を焼き付けている。
「え、いや、ありえないでしょ…?」
ポロっとこぼれ落ちた声は否定していた。
「あはは、ないでしょ。冗談、やめてよ~」
軽い感じで流そうとすると、幹久は真剣な顔で言い切った。
「冗談なんかじゃない。俺は実花が好きだ」
やめてやめて。そんな真剣な顔しないで。
本気みたいなのやめてよ。
信じてしまいそうじゃん。
いつもみたいに笑ってよ。本気にさせないでよ。
こんなのは必要ないのに。
この気持ちはずっと前に捨てたのに、
「実花が恋愛に臆病になってるのもわかってる。怖がってるのも、俺の言葉が信じられないのも。」
わかってるんだったら、言わないで。
そんなこと。
いやなの。恋愛なんてもう、たくさん。
もう傷つきたくないの、幹久は知ってるでしょ?
「実花が傷つきたくないのはわかってるよ。…俺は、実花を傷つけない。」
嘘ばっかり。
傷つくのわかってるんだから。
恋愛は絶対に傷つくの。
私が傷つかなくても、ほかの女の子が悲しくなる。
心に傷を負うんだから。
「なあ、実花。先輩はもういないから、」
「喋らないで!!」
突然、声を荒げた私の気迫に驚いたかのように幹久が息を呑む。
「先輩のこと!もう言わないで!!」
「実花、」
そっと手を伸ばす幹久を思いっきり突き飛ばす。
がしゃん!という音ともに幹久は床に尻をつく。
「…恋は、もう嫌なの!幹久はそんなこと今まで言わなかったから、一緒にいたのに…っ!私を理解してくれてると思ってたのに!!」
「実花!」
「もう私に関わらないで!…っ!」
止まらない、何もかももう止まらない。
思い出が、忘れていたと思っていた、あの日が、
脳裏をよぎる。
さっと、幹久の横をすり抜け教室を飛び出す。
「実花!待てよ!」
幹久が呼び止める声が聞こえたけど、聞こえないフリをする。
あの日が、思い出される。
一瞬にしてあの日に戻っていってしまう。
忘れたいのに、消してしまいたいのに。
どうしても私は忘れたフリをして覚えていてしまう。
…あの日のことを、