君との距離は1メートル 【完】
「愛巳、部屋先に行ってて」
靴を脱いで玄関から上がると、光君が前にいた愛巳に向かって階段を顎でさした。
「分かった」
こくっと頷いて愛巳がためらいなく階段を上がる。
そっか。いとこだから家ぐらい何度でもきてるからわかるんだよね。
奏子も同じことを感じ取ったようで、私と目配せした。
「光の部屋はここだよー」
開けられたのは、2回の突き当たりの部屋だった。
中はいつも通りの光君の部屋だけど、家の中からは初めて入った。
「もー愛巳ったら光君の部屋まで案内できるんだー」
口を尖らせてまったくーと言う奏子に愛巳が照れ笑いをする。
「いとこだから昔から何度もきてるもん。知ってて当たり前なだけだよ」
「ふ〜ん?もうなんだかんだ言って心の距離も近いんじゃないのー?」
まだ嫌味っぽく奏子が愛巳をいじる。
「そんな、違うって!ね、杏奈もなんか言って!」
ブンブンと赤くなって否定する愛巳がこっちを見てきた。
「そんなことないよ〜!絶対いい感じだよ」
こんなことを言う自分に、なぜか心が苦しくなる。
そう思っているはずなのに、どうしてか心から言えていない、言いたくないと思ってる自分がいて嫌になる。
私はせめて顔に出ないように笑っておいた。
理由のない重い感情をどうにかして追い出す。
しばらくすると、ドアが開いて光君がコップをのせたお盆を持って入ってきた。
すると、後ろから誠君ともう一人、知らない男の子が光君に続いて入ってきた。
「柴田君!おはよー!」
奏子が誠君を見た瞬間手を振る。