君との距離は1メートル 【完】
「ーっ愛巳!
そう言えばオススメのクレープあるって昨日言ってたよね?
それあたし忘れちゃったから二人と一緒にクレープ行ってきてよ!
あたしたこ焼き並ぶから!」
愛巳に声をかける前に何かが喉に張り付いたように声が出せなかった。
見たこともない愛巳の目を見てしまったからかな…。
明るく愛巳に言えたはず。
そのとおりだったのか、さっき見た冷たい表情の愛巳ではなくて、いつもの可愛いらしい笑顔で愛巳はこっちを見ていた。
「あー!そっかいいよ!杏奈こっちよろしく!」
「うん!」
ドキドキと早い鼓動を抑えながら愛巳と入れ替わる。
すれ違う瞬間に体がこわばってしまった。
怖い…
と初めて愛巳を思ってしまった。
愛巳達は向かいのクレープの屋台に向かっていったみたいだ。
私は列に戻ってから3人をみようとはしなかった。
正確には愛巳を。
「……杏奈
やっぱり聞きたい事があるの」
私の後ろにいる奏子が真剣な声で聞いてきた。
「な、なに?」
ふざけた空気にはなれなくて私も真剣な目で奏子を見る。
「杏奈
光君が好き?」
「ま、また~?!好きじゃないよ!前にも言ったじゃーん!やだ、奏子ったら
あははは…はは…は…」
前と同じ調子で言うけど
奏子の目は変わらない真剣なまま。
私も笑うのをやめて奏子を見つめかえす。
「やっぱり杏奈を見てればわかるよ。
柴田君を見る目と光君を見る目は全然違う。
光君が好き、違う?」
違う!って私は言えなかった。
でも、好き。なんて言うのもそれはやっぱり違う気がする。
「光君はね、私にとってここに来て1番最初の友達なの。だから他の人よりはちょっとは特別な目で見てるかもしれない」
けど、と付け足して真剣に見つめる奏子の目を私もしっかりと見据える。
「愛巳とは違うと思う。そんな風に好きとは思っていないと思う…」
私ってなんて曖昧なんだろう。
思っていないと思うって…
思ってない!って言えばいいのに。
「そう…。でも、もし好きになったらちゃんと愛巳にも私にも言って?
後悔しないためにも。自分のためにも、私や愛巳のためにも…」
そう言う奏子の目は
悲しそうに
苦しそうに揺れていた。
私のために言ってくれてることなのに、まるで自分に言い聞かせてるみたいに。
「うん。ちゃんと好きな人ができたら言うよ、どんな人であっても」