君との距離は1メートル 【完】
「いや、俺んちに愛巳が来ててさ」
え!愛巳?!
その名前を聞いた瞬間ドキドキなんてものは私の中から消えていった。
だって、夜私と光君が一緒にいるのを見たら愛巳どう思う?
私、ちゃんと分かってるのに光君とこうやって会って最低なんじゃないかな?
嫌に決まってるじゃん。私が愛巳だったらきっと傷つく。
そういう事を私はしてしまってるんだ。
分かりきってたことなのに。前から分かってたのに。
でも、光君とのこの時間が特別すぎて
光君との事しか考えてなかったんだ。
事実、愛巳に見られたらまずいって思ってる時点で私は最低な女決定だよ。
「愛巳、光君に用があるんじゃないの?」
こっそり覗いてみると、愛巳が光君の玄関の前に立っているのが見えた。
部活帰りだからか制服だ。
「多分。でもあいつ話しが長くなるし、大した用じゃないと思うんだけど」
うーん、と光君は腕組みをして考えこんだ。
「行ってあげなよ、せっかく来てるんだから」
グイッと腕を引っ張って部屋に連れ込む。
あ、でも私の家から出てきたの見られたら…。
でも光君がベランダからジャンプするのだって見られるかもだし…。
「杏奈…?」
連れ込んだはいいけど、そこで棒立ちになってしまった。
「ね、杏奈。俺は…愛巳といるより今は杏奈といたいんだけど」
……え?
ぐるっと振り返って光君を見上げる。