君との距離は1メートル 【完】




「だって、今は杏奈といる時間が大切だし。それに…俺は…」






振り向いて見た光君の顔は





真剣で、その目をまっすぐ私を見つめていた。




「お、俺は…?」





先を話そうとしない光君に聞き返す。





ハッとしたような、我に帰った顔をして


「なんでもない」



とだけ呟いた。





「とにかく、愛巳は大丈夫だよ」



真剣な表情から少し柔らかくなってこっちを見て微笑んだ。






「……だ」





「え?」




私がボソッと口にした言葉は聞こえてなかったようだ。







やだ。



だって、そんなの私は期待しちゃうじゃん。





期待なんかさせないでよ…。




本当は、光君が優しいから。

誰にでも優しい人だからその言葉はなんでもないって分かってるのに。



期待してしまう自分がいることが嫌だ。









ぐっと口に力をこめて光君を見つめる。








こんなのもう駄目なんだ。





「光君、もうベランダを飛び越えて会うのは止めよう」







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