君との距離は1メートル 【完】
ぎゅっと優しい力が心地いい。
杏奈…好きなんだ。
その言葉が出てこない。
そっと自分の手を杏奈の背中に回そうとした時、
顔を埋めていた杏奈が顔を上げた。
わっ、ばれた?!
背中に手を置く前にピタッと止めて杏奈の顔を見下ろす。
「あ、杏奈…どういうこと…?」
見上げてくる杏奈の優しい笑顔に問いかける。
「光君」
杏奈は目を細めて名前を呼んだ。
それから俺の背中から腕をどかして俺から離れた。
くっついていた分、温もりがなくなると一気に体が冷えてく気がする。
「さよなら」
「え?」
杏奈は一言それだけ言うと急いでベランダから部屋の中に戻った。
「え?!杏奈待って!」
はっと我に返って引き止めようとするとピシャッと窓が閉められた。
「杏奈っ?!」
ガチャっと鍵の閉まる音がしてカーテンも閉められた。
「ちょ、なんだよ!杏奈っ」
ベランダの窓を強く叩いてみるけど
杏奈が出てくることはなかった。