君との距離は1メートル 【完】



「こんにちは、美春の彼氏です」




美春先生がフルートを持ってその隣に男の人が立っている。




「はっ!こんにちはっ!」




急いでお辞儀をして顔を上げる。



わぁ!美男子だ!!黒髪の短髪にキリッとした目が印象的な男の人。



なんて美春先生とお似合いなんだろう…。


「杏奈ちゃん、私の彼氏の遠野春馬。私と同じ大学でピアノ科なの」



「はぁ…」




驚きのあまりため息のような返事しかでてこない。


まるで映画やドラマに出てくる俳優さんを見ているようだ。


「宜しく、杏奈ちゃん」



遠野さんはこっちに近づいて握手を求めてきた。



「あ、笹野杏奈です。美春先生にお世話になっています」



すっと手を差し出して軽く握手する。



「じゃあ、私達レッスンだからまた後でね」



「分かった」


美春先生は遠野さんに手を振って見送った。


凄い…。美春先生のこんな優しい目を初めて見た。


美人だからさらに美しい…。

それは恋のおかげなんだろうか。

恋はここまで人を変えるんだ。



「ごめんなさいね、さぁやりましょう」



美春先生はいつもの表情に戻ってフルートを温めだした。

私も急いでフルートを用意する。
美春先生の彼氏を見た事でちょっと動揺しちゃってるけど。


集中集中。




ーーーーーー…






「息をもっと吹き込む。そこのフレーズで抜いたらダサいでしょ?」



さっきのあの優しい表情は幻か。

いつもの美春先生はビシビシと駄目出しをしてくる。



「はい」

でも、美春先生らしい。
恋をしてても美春先生は美春先生だよね。


「だーかーらっ!もっとこう!!」




美春先生はフルートを構えて綺麗な音を奏で出す。


この音を私も出したいな…。

「そら、やってみ」


美春先生は吹き終わるとクイっと顎で楽譜を指した。


「はい」

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