君との距離は1メートル 【完】
「おい、もう9時だぞ?」
「「ええっ?!」」
曲の最後の部分を吹いていたら遠野さんが部屋に入ってきた。
9時という言葉に美春先生と私の声は見事にハモった。
「うそっ!ごめんなさい。杏奈ちゃん大丈夫?」
「大丈夫です!」
私達何時間吹いてたんだろう。時計も見ずに、水も飲まずにずっとフルートを握っていた。
「車で送ろうか?」
遠野さんが腕を組んで聞いてきた。
「あ、平気です。遠くないんで」
フルートを片付けながら答える。
美春先生との時間を削ってしまって申し訳ない…。
「送ってあげましょ?寒いし夜遅いのに危ない」
美春先生はもうコートを着て外に出る準備バッチリだった。
「す、すいません」
フルートを片付け終わって身支度をする。9時って…光君待ってるよね。
「はい、乗って?」
遠野さんがわざわざドアを開けて待っていてくれた。
紳士だ!!
「すいません、本当に…」
いそいそと後部座席に乗り出発を待つ。
あ、ケータイ。
ポケットからケータイを取りだして電源をつける。
げっ!!光君からLINEが入ってる。
『まだ帰ってない?』
8時にメッセージがきてる…。
とりあえず終わったこと報告しなきゃ。
『今教室終わった!ごめん!』
それだけ送ってケータイをしまった。
ガチャっと助手席側のドアが開いて美春先生が乗ってきた。
そのすぐあとに運転席に遠野さんが乗り込む。
「いやー、本当悪かったわ。お母さんに謝らないと」
「あ、大丈夫です。たいして心配してないので」
ミラー越しに美春先生が驚いて目を見開いてるのが見える。
「そうなの?まぁ、今の高校生ったらフラフラしてそうだものね」
「あはは…」
私もそう見えてんのかな…。
そうおもうとちょっと悲しくなってきた。
「はい、行くぞー。杏奈ちゃん道案内よろしく」
遠野さんが笑いながら運転を始めた。