君との距離は1メートル 【完】
「じゃあね、お母さんお父さん」
あれから2週間後。
いよいよ私も一人暮らしのためにこの町を出る。
またあの時のように、駅のホームで今度は私とお母さんとお父さんがいた。
「体に気をつけて、連絡もするのよ?」
お母さんは心配そうに私を見る。
「分かってる!大丈夫だから。たまには帰るよ」
自分が親の元を離れるなんて、まだ先だと思ってたのに。
意外と早いものだ。
「光君にもよろしくね?」
お母さんはいくらか安心した顔になると、明るい声でそう言った。
「光〜?結局どこに引越したのか教えてくれてないんだよね〜。全く」
そう…。あれからLINEとか電話はするけど、その度に引越し先を聞いてもはぐらかされてばかりで教えてくれない。
もう、私本当に彼女か心配になる。
私のうんざりした声にお母さんは驚いたように目を見開いた。
「あ、あら!まだ教えてくれてないの?」
「そうなんだよね〜、もうなんなんだか…」
私は肩をすくめて力なく笑った。
『間も無く、2番線ホームに、電車が参りますー』
「あ、そろそろだ」
私の乗る電車がこっちに向かって走ってくる。
「まぁ、どうせ光君の事だもの。すぐに教えてくれるわよ」
お母さんは楽しそうに笑うと、ね?とお父さんの顔を覗き込んだ。
「そうだな」
お父さんも何故か楽しそうに笑った。
「そお?ま、とにかく行くね!じゃあ!」
「気をつけてー」
私はお母さんとお父さんに手を振って、ホームに着いた電車に乗り込んだ。