君との距離は1メートル 【完】



「引っ越してきた笹野杏奈さんです。皆笹野さんに協力してあげてね!」

先生が明るい声でそういうと、どっからかおちゃらけた男子の声で「はーーーい!!」と返事があった。

教室に入って、私は先生の隣に並んだけど…。前を向いた瞬間、色んな人の目が私を見ていて

ああ、これが転校生の気持ちか…

なんて思ってしまった。



「それじゃ、笹野さん自己紹介をどうぞ」
ザワザワした教室の中、糸先生が私に聞こえる声でうながしてきた。

「笹野杏奈です。吹奏楽部に入ろうと思っています。宜しくお願いします」


ぺこり、とお辞儀をしてもう一回前を見る。

ちょっと真面目だったかなと思ったけど先生が席を教えてくれたのでとりあえず席に着くことにした。



「えーと、1時間目は9時からはじめようと思うからそれまで歓談しててー」


先生がそう言い終えると、クラス中がわぁ!と歓声に包まれた。

席に座って、何事だ?とキョロキョロしていると、1人の女の子がこっちに来た。


ニコニコした笑顔で見下ろされ、どうすればいいかわからず私もニコニコ…。
これまたまつ毛が長くて色素の薄い茶色い髪をポニーテールにしている可愛い子だ。


「私、池田愛巳(いけだ あいみ)っていうの!このクラスでただ1人の吹部だからさ、仲良くしてね!」


「本当!?あ、笹野杏奈です。フルートやってるんだ。よろしくね」


私は差し出された手を握って握手した。


「へー!フルートか!あたしはクラリネットやってるんだ〜。部活仲間が増えて嬉しいよ」

愛巳ちゃんはそう言うと私の隣に腰を下ろした。

ていうか、2人目の友達まで『池田』なんて、凄い偶然だな。

「私さ、引っ越してきて初日に隣の家の男の子と友達になったんだけどね、その子も池田っていうの」


凄い偶然だよね、なんて愛巳ちゃんに話しかけると愛巳ちゃんはえっ?と目を丸くした。

「池田って、もしかして池田光?林丘高校の?」


「えっ?!そうだけど、なんで知ってんの?!」


愛巳ちゃんのドンピシャな発言にこっちが驚く。
エスパーなの?愛巳ちゃんて。

「うそ〜〜〜!!びっくりー!光さ、私のいとこだよー?!」

あははは、と顔に似合わず甲高い声で笑う愛巳ちゃん。

いやいや、注目するのはそこじゃなくて


「いとこなの?!」

そっちの方が驚きだ。まぁ、ここらへんはいとこがこんなに近いのもあまり不思議じゃないのかもしれない。
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