臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 飯島が答えた時、二ラウンド目の終了ブザーが鳴った。大崎は冴えない表情で青コーナーへ戻った。

 石山が話し掛ける。

「大崎、右クロスが必要なのは分かっただろ?」

「……そうですね。清水先輩の左ジャブが邪魔で、中へ入りづらかったッス」

「次のラウンドはトコトン右クロスを狙ってみろ。まずは打ち慣れるんだ」

「……当てる自信は無いッスよ」

「当たらなくてもいいんだよ。今日のスパーが終わったら、試合に使える技を教えるからな」

 石山がのんびりとした口調で話すと、大崎は大きく頷きながら返事をした。



 三ラウンド目が始まる直前に清水が言った。

「石山、大崎はこのラウンドで右クロスを狙うのか?」

「あぁ、今度はアウトボクシングをしないで貰いたいんだよ。……いいか?」

「わーったよ。リクエストに応えてやるよ」

 清水はそう答えた後、棒読みのような独り言を聞こえるように言った。

「……まぁ俺は、大崎ごときの右クロスは貰わないけどな」

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