臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 飯島は康平を見ながら答えた。

「森谷は、自分で考えながら戦えるからな。試合中は外野から指示を出さないようにしてるんだよ」

 康平は、スパーリングをしている時の自分を思い出し、森谷を凄いと思った。

 スパーリング中は動きが激しく、それと同時に相手からのプレッシャーもあり、あまり考える事が出来なかったからだ。


 康平の顔を見て察したのか、飯島が付け加えた。

「考えながら戦える奴はなかなかいないぞ。……森谷は梅田先生の考え方をほぼ理解してるから、インターバル中にする先生のアドバイスで充分なんだよ」


 康平は納得し、続けて質問した。

「という事は、相沢先輩も考えながら戦えるんですね」


 飯島は視線をリング上に向けた。どこか遠くを見るような目になった。

 そして彼は言った。

< 110 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop