臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
相沢は、二発の左ジャブを打って距離を詰める。
有馬が訊いた。
「先生、先輩は今、二つ目のコンビネーションを打ちましたよね?」
「いや、今のは入らないぞ。三つのコンビネーションと言っても、そればっかり打っていたら危険だからな。左ジャブや単発の右ストレートは、狙っているコンビネーションをカモフラージュしてるんだよ」
飯島は、そう答えながらストップウォッチを見た。そして、リングに向かって叫んだ。
「ハーフタイム!」
その声を聞いた相沢は、左フックで飛び込んだ後に、体を沈めながら右アッパーをボディーに叩き付けた。
飛び込みながらの左フックは警戒されているようで、相手のスウェーバック(のけぞるような防御)でかわされたが、右アッパーはまともにボディーへヒットした。
「相沢、ナイスボディーだ!」
三年生達が声を張り上げる。
相手はボディーが効いたのか、背中が丸くなり、動きが鈍くなった。
相沢に畳み掛ける様子はなく、体を沈めながらスッと下がり、左へ回って二発の左ジャブを突いた。