臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)

 兵藤が康平に言った。

「坂田はいい奴なんだろうな?」

「いい奴ですけど……何で分かるんですか?」

「自分が次の試合に出るってのに、あんなに一生懸命応援してるからさ。……大抵の奴は、自分の試合の事で頭が一杯になるもんだけどな」


 康平は、自分の事そっちのけで応援する裕也を見て、友達が困っている時、自分の事以上に悩む彼を思い出した。

 真っ直ぐ過ぎる性格から誤解され易く、特定の人間達からは煙たがられていたが、裕也は康平にとって、かけがえのない友人の一人だ。


「ホント、いい奴ですよ」

 康平がそう言った時、青葉台高校の部員達から歓声が湧き上がった。

 松岡の左右のストレートが二発ヒットし、相手は大きく下がっていた。

 すぐに追撃をすればダウンが取れそうなチャンスだったが、松岡はゆっくりと前に出ていった為、相手は体勢を立て直してしまっていた。

< 118 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop