臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
ゴングが鳴ると、裕也はサッと振り向き、対戦相手へゆっくりと進んでいく。
相手は、裕也よりもやや背が低い右構えである。
二人がリング中央まで進んだ時、相手はいきなり左のロングフックを放った。
小さなバックステップでこれを空振りさせた裕也は、すぐに踏み込み、二発の左ジャブを繰り出す。
踏み込んだ時、マットからキュッと摩れるような音がした。
相手が頭の位置を変えた為、二発の左ジャブは空振りに終わった。
突き出した左グローブは、伸ばした時と同じスピードで構えた位置にピタリと戻っていた。
鋭い左ジャブに、観客席から「オーッ」というざわめきが起こった。
シャドーボクシングをしていた時の裕也は、ガードを窮屈な程締めていたが、今は少し緩めにしている。
全身を小刻みに震わせるようなリズムを取りながら、裕也は左へゆっくりと回り始めた。