臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 試合開始から二十秒経った。裕也は速い左ジャブを繰り出すが、右パンチはまだ出していない。


 更に十秒程経った頃、裕也の左ジャブが相手の顔面にヒットした。

 相手の頭が小さく後ろにブレる。

 その瞬間、今まで微動だにしなかった裕也の右グローブが、矢のような速さで、相手の顔面へ向かっていった。

 打ち下ろし気味に打った為、裕也は上半身をやや前に倒して打っていた。

 パンチは僅かに外れたが、真っ直ぐに伸びた右ストレートは、打った時の軌道をなぞり、真っ直ぐに顎の横へピタリと戻る。

 同時に、やや前に倒していた上半身も、パンチを引きながら構えた角度へ戻った。

 予備動作のない、まるで精密機械のようなパンチに、会場が再びざわめく。


「はぇー右だな」

「アレは当たったら倒れるぞ」


 観客席からの声が康平にも聞こえた。

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