臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 裕也はセコンドに笑顔を向けたが、横になったままの相手選手が気になったのか、時折そちらを心配そうに見ていた。

 相手は、担架で運ばれてリングを下りた。意識はしっかりしているようで、ドクターに声を掛けられた時、小さな声であったがハッキリと答えた。

 それを見た裕也は、ホッとした表情で他の部員達と話をしていた。


 清水が兵藤に言った。

「アイツ、試合じゃストレートしか打たなかったな」

「フェイントも無いし、ワンツー(ストレート)も全く打たなかったし、全部ただのストレートだったな。この大会まで、ストレートだけを徹底的に磨いてきたんだろうな」

「あの速い右ストレートのトリプル(パンチ)を、全部強打で打てるって事は、余程体幹が強えんだろうな」


 相沢が話に加わった。

「俺は体重が増えても、ライトウェルター級には上げたくないッスね。アレは来年になったら、もっと化けますよ」


 永山高校の先輩達は、裕也を高く評価していた。
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