臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 相手が左パンチを打とうとした時、森谷はそれに合わせて左フックを放った。彼の得意とする左フックのカウンターである。

 だが、お互いの左パンチは空を切り、続けて打った相手の右パンチが森谷の顎を捉えた。彼は一瞬腰を落とした。

 すぐに打ち返す森谷だったが、相手のパンチが先にヒットした。更に、二発のパンチが追い打ちをかける。

 堪らず後退する森谷へ、相手は足をバタつかせ、つんのめりながらパンチを放って追い掛けた。

 ロープ際でラッシュを浴びる森谷に、レフリーはダウンを宣告した。


「森谷、まだ挽回出来るぞ!」

 兵藤がそう叫んだ時、飯島が大声で指示を出した。

「森谷、足だ足。フットワークを使うんだ。いいな」


 レフリーがカウントを数えている最中、森谷は意外そうな顔で飯島を見た後、セコンドで座っている梅田に視線を移した。

 ルール上、ラウンド中セコンドは声を出す事が出来ない。梅田は、飯島をチラッ見て頷いた後、森谷を見てもう一度頷いた。

 彼は、飯島の指示に従えという梅田の意図を理解したようで、小さく二度頷き、ガードを高く上げた。

< 136 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop