臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 レフリーと話し終わった梅田は森谷に言った。

「一ポイント差でも負けは負けだ。お前は実力で負けたんだよ」


 全部の試合が終わり、この日も一年生達は梅田の車に乗り込んだ。


 助手席に乗っている健太が、運転中の梅田に話し掛けた。

「森谷先輩の試合は運が無かったですね」

「負けたのは実力なんだよ。左ショートのカウンターが当たって、決定的なチャンスに森谷が仕留められなかったのも、二ラウンドが終わるまで、俺が相手の欠点を見抜けなかった事もな」

 梅田は、自分の事も含めて実力と言っているようである。彼は話を続けた。

「レフリーと話してたんだが、三ラウンド目の決定的なチャンスも、森谷が軽いパンチでも出してれば、レフリーは試合を止めるつもりだったんだよ。相手は完全に効いていたからな」


 康平が質問した。

「その事を、森谷先輩は知ってるんですか?」


< 142 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop