臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
「この事は森谷に言うなよ。まずは森谷自身、何が足りなかったかを、自分で考える事が大事だからな」

 梅田はそう言うと、黙って運転を続けた。

 同じ学年の黒木や裕也の強さを目の当たりに見たせいか、一年生達も押し黙ったまま座っていた。


 昨日と同じく、有馬と白鳥を途中で下ろす為に、梅田は車を止めた。

 ドアを開けた有馬が言った。

「黒木や坂田の試合を思い出してたんですが、あいつらに比べたら、俺達はまだまだなんですよね」

「当たり前だろ! お前らは足りない所だらけで、まだまともなスパーも出来てないんだからな」

 有馬は「そうですよね」と言って車を出ようとした。

「……ただなぁ」

「ただ?」

「足りない所を少しずつ埋めていくとな、いつの間にか戦えるようになってるんだよ」


 有馬は、ドアを開けたまま首を傾げた。


「ドアを閉めて少し中にいろ」

 梅田は話を続けた。

「いいか? ボクシングはなぁ、将来(さき)が見えなくても、馬車馬のように練習出来る奴が強くなるんだ。そういう奴は、いつか恐ろしく化ける。黒木や坂田は気にするな。今は自分が強くなれる事を信じて練習に打ち込め。分かったな」


 一年生達は返事をしたものの、声は小さめだった。

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