臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 横山が大声で言った。

「ワ、ワタッちゃん! リ、リ、リラックスな!」

 彼は緊張のあまり、声が裏返っていた。会場から失笑があった。

 大崎は苦笑しながら肩を二回上下させた。


 飯島が言った。

「横山、お前狙って言ったのか?」

「違いますよ。た、ただワタッちゃん(大崎渉)が、か、空回りしそうだから言ったんです」

 横山は、裏返った声のまま真顔で答えた。


「そ、そうか? ……ありがとな。お前の一言で、大崎も気負いが無くなったようだしな」



 第一ラウンド開始のゴングが鳴った。

 右構えの荒川が左ジャブを二発伸ばした。軽そうだが、スピードの乗ったパンチだ。

 大崎は頭を振りながら、左へサイドステップをしてこれを空振りさせた。昨日と一昨日の試合では、ダメージが無かったのもあって、動きは良さそうだ。

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