臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 四回深呼吸をし、うがいも終えた大崎に飯島が言った。

「いいか、このラウンドが勝負だぞ。アレをぶちかましてやれ」

 飯島が二回手拍子をした。大崎は飯島の方を向いて頷いた。


 第二ラウンドが始まる直前に清水が訊いた。

「先生、一ラウンドの最後はいい感じだったじゃないですか? アレは出さなくても大丈夫なんじゃないですか?」

「いい感じだったから出すのさ。あの後荒川は足を使っただろ? 次のラウンド、奴はアウトボクシングをしてくるから、早い内に勝負をかけるんだよ」

「……そうですね。大崎は、足を使う奴にはまだまだですからね」


 清水が言い終わる前に、第二ラウンドが始まった。

 荒川は大きくフットワークを使い始めた。充分に離れた位置から、スナップの効いた長い左ジャブを繰り出す。

 リーチに劣る大崎が距離を詰めると、荒川はスッとバックステップをして、再び大きく回り出した。

 飯島の予想通り、荒川は接近戦で無理に打ち合わず、アウトボクシングに徹するようである。

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