臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
「ストーォップ!」
レフリーはダウンを宣告した。カウントを数えられたのは大崎だった。
彼は倒れてこそいないが、石につまずいた格好になり、両手をマットにつけていた。
大崎はすぐに立ち上がった。右クロスカウンターは空振りし、左フックを引っ掛けられてのダウンだったが、単にバランスを崩しただけでダメージは無さそうだ。
「大丈夫だ大崎! まだいけるぞ」
兵藤が叫んだ。立花高校は部員が多く、盛り上がる相手校の大歓声に、その声も掻き消されそうだ。
飯島も声を張り上げた。
「ビビってんじゃねぇぞ。踏み込みが浅いんだよ」
激励でなく、挑発のような言い方だ。そして、彼は二回手拍子をした。右クロスカウンターを再び狙えというサインだ。
飯島にではなく、踏み込みの浅かった自分自身に腹を立てた大崎は、右足で強くマットを踏みつけた。ドシンと音がした。
アマチュアボクシングはマナーに厳しい。レフリーは大崎に一言注意を与えた後、試合を再開させた。