臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 清水が言った。

「アイツ、足にキテんのか?」


 相手は一度フェイントを入れた後、左右フックで攻め込んだ。

 祐也もその場で応戦する。昨日の試合で打っていた洗練されたストレートではなく、フック気味のパンチだ。

 共に荒々しいパンチでの打ち合いになった。二人は大振りだった為か、空振りを繰り返した。


 残り三十秒になった時、祐也の右パンチがカウンター気味にヒットした。

 右を打とうと体を左にひねっていた相手は、顔の向きだけが右にねじれ、糸の切れた操り人形のようにその場で崩れ落ちる。

 倒れかかる相手へ、祐也は下向きに左フック振るった。

 空振りになったが、彼は目を大きく見開き、マウスピースがむき出しになる程歯を食いしばっていた。必死の形相だ。

 レフリーは、祐也を抑え込むような格好でダウンを宣告した。

 微動だにしない相手を見て、レフリーはノーカウントで試合をストップさせた。

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