臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
開始のブザーが鳴り、第二ラウンドが始まった。
長身の兵藤は右構えのまま、摺り足で位置を変えながら強い左ジャブを放っていた。
時折左ジャブがヒットするものの、相沢に距離を詰められ、コンビネーションブローで上下(顔面とボディー)に打たれる場面が多くなった。
中盤を過ぎると、アウトボクシング(離れて戦うボクシング)をしても分が悪いと思ったのか、兵藤は斜(はす)に構えたまま相手に体を押し付け、接近戦を挑み始めた。
彼がサウスポースタイルで得意だった右フックと右アッパーは打ち易いようで、ガードの上からではあったが鋭く突き刺さった。
それを見て清水が言った。
「兵藤は接近して正解だと思いますよ。中途半端なアウトボクサーには、相沢は滅法強いですからね」
「お前もパンチだけで捌こうとして、滅多打ちを食らった事があったからな」
飯島がそう答えると、保護具を付けた石山が話に加わった。
「アイツは、中途半端なファイターにも強いですよ。距離の詰め方が悪い時は、俺もやられた時がありましたからね」
それを聞いた飯島は苦笑した。
「結局相沢は、中途半端なボクサーに強いって事か?」