臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
三人が話している間も、接近戦での打ち合いが続いていた。
慣れない右構えのせいか、兵藤は左のパンチが少なく、右パンチに頼っているようである。
右アッパーが一発当たったものの、逆に相沢のパンチが兵藤に三発ヒットした。
二ラウンド目が終わった時、清水が茶化すように言った。
「兵藤、苦しかったらサウスポーに戻っても構わねぇんだぞ」
「うっせーよ。それじゃあ、相沢の練習にならねぇだろ」
隣にいた石山が、苦笑しながらささやいた。
「ヒデェ奴だな。お前の挑発のせいで、兵藤はサウスポーに戻れなくなっちゃったじゃねぇか」
清水はニヤリと笑った。
「アイツは他人にも厳しいが、自分にも厳しいからな。……これで兵藤は、次のラウンドも打たれるのが確定したって訳だ」
「いや、そうとも限らないぞ。兵藤の奴は何かやるつもりだろうな」
飯島が呟くと、二人の三年生は、意外そうな顔をして彼を見ていた。